まなびの『び』

投資運用、業界研究、時事、その他学んだことを

2023年3月の相場振り返り

2023年3月の相場の振り返りです。eMAXIS Slimシリーズの基準価格の推移を参考にみていきます。図は前月末の各投資信託の基準価格を1として、その推移をグラフ化したものです。参考にドル円の推移も掲載しています。

2023年も4分の1を消化し、3月といえば年度として見たときの最終月。私が働いている企業も3月末を締めるためにバタバタ、また人事異動の季節でもあり慌ただしい1ヶ月でした。4月は今度は年度初めということで、同じく忙しい日々が続いているのですが。さて、3月は月中に金融不安が世界に広がるといったショックもありました。順を追ってみていきます。

 

まず月初ですが、日本の株式市場は、先月から続いた円安により、輸出関連銘柄を中心に株価が上昇。eMAXIS Slim国内株式の基準価格も3月9日には13,347円まで上昇し、2月末から4.3%ほど上昇しました。アメリカでもFOMC3月会合に向けて重要指数の発表が控える中、上昇していました。

そして3月の最大のニュースである金融機関破綻に至ります。アメリカのシリコンバレーバンク銀行では、これまでの政策金利上昇により、顧客であるスタートアップ企業の資金調達が難しくなり預金引き出しが行われたことで、銀行の資金が不足したことになります。リーマンショック以降最大の銀行破綻ということで、市場にショックが走ります。

manabinobi.hatenablog.com

金融不安はアメリカだけではなく、ヨーロッパでも。クレディ・スイスグループでも経営懸念が広がりました。これら問題に対してアメリカ連邦準備理事会FRBやスイス中央銀行は速やかに対応したものの、市場は銀行株を中心に落ち込みました。

この混乱の中で発表された2月の消費者物価指数は1月から比べて鈍化したものの、下がり切らず、高止まりの状況となっています。

manabinobi.hatenablog.com

そして開かれたFOMC3月会合。市場では金融不安を拡大させない目的で利上げ見送りの可能性も囁かれた中で、結論は0.25%の利上げの発表でした。足元の金融不安については、銀行システムが健全であることをアピールするコメントもありました。

クレディ・スイスについても同じくスイスのUBSが買収を発表し、救済が進むことになります。

manabinobi.hatenablog.com

こうして月末に近づくにつれて金融不安への懸念は後退し、株価も回復していくことになります。投資信託の指数の推移に再び見ても、国内外ともに、月中は先月末からマイナスの時期もありましたが、月末には回復している事がわかります。

日本の株式市場が続落。アメリカの景況指数が不安視。

4月5日、6日の日経平均株価は2日連続でそこそこ大きく下落していきました。

4月5日は▲474円(▲1.7%)

4月6日は▲340円(▲1.2%)

の下落となりました。2日合わせて800円の下落となります。

為替は4月頭からここ数日円高が進んでいて、4月6日は131.3~5円程度で推移しています。円高が進んだことで、輸出企業株が売られるというものもあるのですが。

日本株が弱いのはアメリカを中心に景気動向が曇ってきていることが挙げられています。特に、3月のアメリカでのISM製造業景況感指数とISM非製造業景況感指数がともに低い結果となったことで先行き不安が広がったとされています。

このIMS製造業景況感指数および非製造業景況感指数は、企業に受注や生産などの複数の項目についてアンケート調査を行い、その結果が集計されたものです。これら指数が市場予想よりも下回り、つまり実際の事業者は景況を悪く感じている、ということで、懸念材料が多い状況となっています。

日本の株式市場では、3月に発生した金融不安による下落からかなり回復をしていたところでもあったので、この悪い材料によって『今のうちに』と利益確定をした、といった動きもあるかと思います。これから3月決算の企業が決算発表を行うシーズンに入ってきますので、株価の動きも激しくなりますので、『今のうちに』がより強く反映した、ということもあるかもしれません。

原油価格が急騰。OPECプラスが減産

4月2日にOPECプラスの会合があり、5月以降の減産を発表しました。その減産量が大きく日量100万バレルを超える規模で、原油市場にとってサプライズとなりました。

4月3日月曜日のWTI原油(ウェスト・テキサス・インターミディエイト原油)は前週末である3月31日の終わり値から大きく窓を当けて急騰し、一時的に7.7%上昇しました。

上図WTI原油の1年間の日足チャートを見てみると、昨年6月にピークを迎えたあとは、じりじりと価格を下げる傾向にありました。特に今年3月には急落しています。

これはインフレに伴う政策金利の引き上げにより、経済活動が鈍化することが需要の低下することが懸念されての価格低下とされています。特に今年3月の低下はアメリカのシリコンバレーバンクやスイスのクレディ・スイス銀行に端を発する金融不安によって、価格が落ち込みました。最近は金融不安も楽観視されつつあったため、原油価格も戻りつつありましたが、今回のOPECプラスの発表で急上昇しました。

 

上述のように金融不安が再度広がることで、再び価格が急落する可能性もあり、OPECプラスとしては、価格を安定させたいという思惑があるものかと思われます。一方で、最近欧米ではようやくピークを超えた感がありましたが、原油価格が下がりきらなければ、物価も下がりきらないことになりますので、反対にリセッションの可能性も高まるというジレンマともなっています。

 

www.bloomberg.co.jp

Bloomebergの記事によると、今後再び1バレル100ドルともなることも懸念されています。原油価格が上がれば、電気料金やガソリンなど生活、経済活動に密着していますから、日本にとっても影響が大きいものです。市場に反映は少し時間がかかるかもしれませんが、減産が続けば徐々にダメージが出てくるかもしれません。

こども家庭庁の発足と少子化対策のたたき台の公表

4月1日が年度の始まりということで、行政の世界でもこども家庭庁が発足となりました。保育所などを所管する厚生労働省や、少子化対策などの内閣府など、複数の省庁にまたがって縦割り構造となっていた、こども政策に関する課題などを横串をさして一貫して所管することになります。目下、日本の最大の課題の一つである少子高齢化にどの様に取り組んでいくかを決定することになります。

前日である3月31日には第6回「こども政策の強化に関する関係府省会議」が開かれ、6月に公表される「経済財政運営と改革の基本方針2023」に盛り込む少子化政策に向けたたたき台を発表しました。ニュースでは、その具体的な施策が主に取り上げられていますが、内容を整理してみます。

 

【こども・子育て政策の課題】

・若い世代が結婚・子育ての将来展望が描けない

・子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境がある

・子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在する

【基本理念】

・若い世代の所得を増やす

・社会全体の構造・意識を変える

・すべての子育て世帯を切れ目なく支援する

【今後3年間で加速化して取り組むこども・子育て政策(加速化プラン)】

①現金給付政策

子育て支援の量から質への転換

③全年齢層への切れ目のない支援

④社会的養護、障害児支援の支援基盤の拡充

⑤共働き・共育てのための中小企業支援

⑥社会全体の意識改革

【経済的支援の強化】

・児童手当の拡充(所得制限の撤廃、高校卒業まで延長)

・妊娠・出産機から2歳までの支援強化(出産・子育て応援交付金の制度化、出産費用の保険適用)

・医療費等の負担軽減(医療費助成を実施している市町村への国民健康保険の減額調整措置の廃止、学校給食費の無償化)

・高等教育費の負担軽減(貸与型奨学金の減額返還制度の年収上限の引き上げ、旧型奨学金の拡大、授業料後払い制度の導入、地方自治体の高等教育費の負担軽減)

・住宅支援(公的賃貸住宅の子育て世帯の入居優先化、空き家の改修、フラット35の支援)

【全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充】

・妊娠期からの支援拡充(伴走型相談支援の制度化、産後ケア事業の強化、女性の健康や疾患に特化した研究促進)

・幼児教育・保育の質の向上(運営費の見える化、保育人材の確保、職員配置基準の改善)

・こども誰でも通園制度の創設(就労要件を問わない通園制度、病児保育の充実)

・小1の壁打破(放課後児童クラブの拡大、職員配置の改善)

・多様な支援ニーズへの対応(こども家庭センターの強化、障害児支援体制の強化、ひとり親家庭の就業促進)

【共働き・共育ての推進】

・男性育休の取得推進(育休取得率目標の引き上げ、育児休業給付金100%へ)

・育児期の柔軟な働き方(短時間勤務・テレワークの制度、時短取得者によるキャリア形成の差の解消)

雇用保険の適用拡大、自営業・フリーランスの年金保険料免除

【こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革】

・こども・子育てを応援する好事例を横展開

 

ニュースでは、高校までの児童手当の拡充がメインで取り上げられていますが、個人的には意外にも、しっかりと課題を捉えて、男性を含めた働き方改革や公共住宅の再利用といったアイディアや、病児保育の拡充などしっかりと考えられている印象です。

これで十分かといえば、そうではないでしょうが、それでも報道で取り上げられている以上には内容が深い印象を感じました。ニュースを見て「こんなものか」という様に感じられた方は、一度原文を見てみるのも良いかと思います。

TPPにイギリスが加盟へ。

3月31日に行われる会議において、TPP(=環太平洋経済連携協定)へのイギリスの加盟が認められる、といった報道が入ってきました。

TPPはその名前の通り、環太平洋ということで、アジアやオセアニア南北アメリカの国々で構成されています。

具体的には、日本、オーストラリア、ニュージーランドシンガポールブルネイベトナム、マレーシア、カナダ、ペルー、チリ、メキシコの11カ国となります。発足時には、バラク・オバマ政権のアメリカも加盟していましたが、次代のドナルド・トランプ大統領がTPP離脱を表明し、アメリカはTPPから撤退することになりました。

この環太平洋の組織に対して、イギリスが参加することになります。イギリスはTPPに加入申請を行った最初の国で、イギリスとしてはアジアとの連携の強化を期待したものとのことです。TPPは自由貿易協定ですので、関税の廃止を含めた貿易の透明化を目指しています。イギリスが加わることで経済圏が拡大していくことになります。

なお、イギリス以外でTPPへの加入申請を行っているのが、

中国、台湾、エクアドルコスタリカウルグアイとされています。このうち、中国と台湾については、中国の「一つの中国」という考え方から、おそらくは同時に加入をすることはできず、また台湾が加入して中国が加入しないということは中国からの反発が強いものになるかと思います。経済圏拡大はしたいものの、頭の痛い問題になりそうです。対中国という観点からすれば、どちらかといえばイギリスは日本やオーストラリアなどと考え方は近いと考えられるので、将来的に中国が加入することになったとしても、仲間が増えることにつながるものではないかと思います。

 

EUのエンジン車規制方針の転換。トヨタ株が上昇。

ヨーロッパ連合EU)は、これまで2035年までにエンジン車の新車販売を禁止することを目指していました。脱炭素を目指すことを目的として、電気自動車でなければならず、ハイブリッド車も含め、内燃機関を持つ車は一切認めず、市場から締め出されることとされてきました。ところが、温暖化ガスが排出されない合成燃料を使用する場合、2035年以降も新車販売を認めると、3月28日に方針転換が発表されました。この背景にはドイツがあるとされています。ドイツも国内産業で自動車が強く、ドイツの主張が一部認められた形になります。

 

この合成燃料は、水素と二酸化炭素を合成して製造させる燃料です。

二酸化炭素は、発電所・工場から排出されたものを利用するということで、二酸化炭素の再利用、いわゆるカーボンリサイクルとなります。水素は風力発電所などの再生可能エネルギーにより水から水素を精製するということで、二酸化炭素排出のない、合成燃料(e-Fuel)というものになります。

(参照)エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

www.enecho.meti.go.jp

 

現状では、結局は電気自動車に加え、合成燃料も認めるという状況ですので、これまで日本勢が目指してきたハイブリッド自動車は除かれる方針は変わらないかと思います。それでもトヨタ自動車を始め日本のメーカーもe-Fuel車は開発を進めていています。

今回の発表で、トヨタ自動車の株も上昇をしました。29日の株価は前営業日から46.5円(2.6%)上昇しています。欧米の金融不安で株価はこれまで急落していましたが、29日の上昇で、戻ってきています。短期的には戻ってきているとはいえ、年間で見れば下落傾向にあります。今後も上昇傾向に転換するとは言えないですが、日本の自動車メーカーの今後の戦略に注目していきたいですね。

物流業界の2024年問題について

YAHOO!ニュースに取り上げられた物流業界の2024年問題について考えていきます。

news.yahoo.co.jp

物流業界の2024年問題とは、なんでしょうか。

2019年に『働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)』が改正され、時間外労働の上限規制が適用されました。しかし、建設業や医師など一部の事業者には適用が猶予されていました。物流事業(のうち自動車運転の業務)もこの猶予の対象となっていたのですが、この猶予期間が終了し、2024年4月から年間960時間上限規制が適用されることになります。これによってドライバーの労働時間が制限されることになることから、ドライバーの人数と物流の労働時間効率も同じであれば、現在の物流量の維持ができないことになります。

 

適当な計算式ですが、

物流量=一人あたりの物流効率×労働時間×ドライバー人数

と表現でいるのであれば、労働時間が制限されることで、物流効率とドライバー人数が同じであれば、物流量が減るということになります。

物流量を維持するためには、物流効率をあげるか、ドライバーの人数を増やす必要がありますが、そもそも上限が適用されていない今の段階においても、ドライバーはなり手が少なく、人手不足となっている状況にいます。このため2024年には物流が滞る可能性があるとされているのが物流業界の2024年問題となります。

 

さて、上記の理由から物流の効率を上げて言うことが求められます。これについて政府も対策を行うことが今回のニュースになります。記事から岸田首相の答弁を参照しますと、

政府として適正な取引を阻害する取引是正や物流デジタル化、モーダルシフト(トラックから鉄道・船舶利用への転換)など輸送の効率化に取り組む

としています。

トラックの強みは工場や店舗、家庭など陸上の各拠点へ配送が可能ですが、1台あたりの搬送量としては多くありません。長距離輸送部分を鉄道や海運を利用することで日本全体で効率化をはかる取り組みがモーダルシフトです。

例えば工場での生産品を他の地方の店舗に運ぶのに、

工場⇒(トラック)⇒駅⇒(鉄道)⇒駅⇒(トラック)⇒店舗

といった具合に、ドライバーの長距離輸送をへらす取り組みになります。

 

他にも、複数の企業の商品を同時に積載させる共同輸送や、トラックの積載量を増やす連結トラックなどの対応策も言われています。この様な対応について、導入企業を支援する政府の支援が促進するかもしれませんね。

 

なお、上述の通り、建設業や医師も上限規制も適用されることから「建設業の2024年問題」や「医師の2024年問題」も存在します。